長年打ち続けた丁張が、要らなかった。~ICT施工に完敗した、ある現場監督の話~

 どうも、量産型ロボCONです。今回、はじめてICT施工に本格的に取り組みました。

 長年この仕事をしていると「新しい技術」への反応は大体こうです。「どうせ現場ではうまくいかない」「結局ベテランの感覚には勝てない」そういう斜に構えた目で見ていた時期が、私にもありました。

 結論から言います。負けました。ICTが、強かった。

「川の中が、事務所から見えた」

 今回の工事は盛土と河道掘削(川の中の掘削)が主な内容でした。3次元の設計データを建設機械に読み込ませ、自動追尾式TS(トータルステイション)とセンサーで機械の位置をリアルタイムに把握しながら施工するそれがICT施工の骨格です。盛土はICTブルドーザーで施工し、地上型レーザースキャナー(TLS)で取得した点群データで出来形を確認します。地表面を無数の点で3Dスキャンして、設計面との差をヒートマップで色分けする。赤い部分は盛りすぎ、青い部分は足りない。一目でわかります。

 ところが河道掘削には壁がありました。レーザーは水面下に届かない。川の中はスキャンできない。「これ、どうするんだ」と思っていたら、答えはバックホウ自身が持っていました。

 バケットの動きが、すべて施工履歴として記録されていたのです。

 現場事務所のモニターを見ると、川の中のバックホウが今どこを掘っているか、リアルタイムで把握できる。水中なのに。川から300m離れた事務所で確認できる。

 正直、声が出ました。「ええい、最新のICT土木は化け物か!」と。

「楽勝」は幻想。でも「楽」は本物

 ICT施工の最大の利点は、品質が個人の技量に左右されにくいことです。経験の浅いオペレーターでも高精度な施工ができる。確認も管理記録も電子化される。体への負担も減る。

 ただ、「テクノロジーは万能」という幻想は最初の冬で砕けました。

 雪でセンサーが狂う。寒さで機器が起動しない。雨天は作業中断。気温マイナス圏では朝の立ち上げだけで1時間近くかかることもある。ICT建機は、思っていたよりずっとデリケートです。

 そして見落としがちな本質的な問題があります。ICTで山を切る作業は若手でもできる。しかしそこへ至る作業道の造成、ダンプの待機場所の確保、土量バランスの調整──現場全体を俯瞰する判断は、結局ベテランにしかできない。ICTは施工の精度を上げる道具であって、現場を動かすのはまだ人間です。

長年打ち続けた丁張が、要らなかった

 ここが今回、一番頭を揺さぶられた体験です。

 丁張とは、「この高さまで盛れ」「この位置まで切れ」を現場で視覚的に示す杭と板のことです。土木工事の基本中の基本。私はこれを、何十年も現場ごとに打ち続けてきました。どの現場でも、まず丁張を打つことから始まる。それが当たり前だった。

ICT施工では、その丁張がほぼ不要です。

 最初は「省手間で最高」と思いました。ところが施工が始まると、妙な違和感がある。現場を見ても、どこまで進んでいるのかイメージがつかみにくい。「あの杭まで」という基準がないから、広い空間の中に自分だけが浮いているような、落ち着かない感覚。

 仕上がりを眺めながら、ようやくわかりました。

 丁張は「施工のためのもの」ではなかった。「人間が現場を理解するためのもの」だったのです。

 機械は設計データの座標を直接読んでいるから、人間向けの目印など必要ない。私が何十年も打ち続けてきた丁張は、機械に教えるためではなく、私自身が「今どこにいるか」を把握するために必要だったものでした。

 つまり私はずっと、自分のために丁張を打っていた。

 その事実に気づいたとき、少し呆然としました。施工のベテランだと思っていた自分が、実は「補助線がなければ現場の空間を把握できない人間」だったのかもしれないと。ICTはその補助線を機械側に内包してしまい、人間の側から静かに取り去っていきました。

「見えていなかった」ことに、気づかされた

 体が楽になったことより、確認が速くなったことより、私にとって一番大きな変化はこれでした。

 長年、私は自分の判断が正しかったかどうかを、完全には確認できないままやってきた。

 施工が終われば測量する。でもその前の「今この瞬間、合っているか」は、感覚で処理するしかなかった。ICTはその「今この瞬間」をデータで返してくれる。自分の判断が正しかったと、リアルタイムで確認できる。その安心感は、長年やってきて初めて味わうものでした。

 「新技術は現場では使えない」と思っていた私が言います。

 ICT施工、本物でした。

 もう昔には戻れない、とはこういうことです。

最後に、この現場の挑戦にふさわしい名言を一つ。

「常に良い方法がある、それを見つけよ」
(トーマス・エジソン)

補足:今回の工事でのICT施工の流れ

起工測量 → 3次元設計データ作成 → ICT建機で施工(盛土:ICTブルドーザー/河道掘削:ICTバックホウ) → 出来形管理(盛土:TLS点群データ/掘削:施工履歴データ) → 電子納品

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